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あしあとふたつ

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パンおばさんと「森の湖」

緑も濃くなり、パンおばさんの森にも初夏がやってきました。

暑くもない、寒くもない、とても気持ちのいい毎日です。

おいしい空気にまじって、パンおばさんが焼くパンのいい匂いがただよってきます。

パンおばさんの住む丸太小屋には、もう子供たちがあつまって、いまかいまかとパンおばさんの楽しいおはなしを待っていました。

「今日のお話、なあに?」子供たちが口々に聞きます。

「そうねえ、今日はある男の子と女の子と森の湖のおはなしをしましょうね。」とパンおばさんが言い、お待ちかねのおはなしがはじまりました。

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ある森に、男の子と女の子がいました。

ふたりはとても仲良しで、毎日毎日森の真ん中で遊んでいました。

花をつんだり、歌を歌ったり、かくれんぼをしたり、本当に仲良しでした。

二人の笑い声で、森はいつもにぎやかでした。

でもあるとき、ふたりはけんかをしてしまいました。

そのけんか以来、ふたりはふっつりと遊ばなくなってしまいました。

森は、二人の笑い声が聞こえなくなって、しん・・・と静かになってしまいました。



けんかしてからというもの、男の子はひとりであそびました。

でも、花をつんでも歌を歌っても楽しくないし、かくれんぼをしても、だれもさがしに来てはくれないのです。

しょうがないので、男の子は女の子となかなおりをしようとあやまりにいきました。

いつも遊んでいた森の広場で、男の子は女の子に「ごめんね。なかなおりしようよ。」と言いました。

でも、女の子は下をむいたままなにも答えません。

「まだおこってるの?」

男の子がいくらあやまっても、女の子は口をきいてくれず、走って帰ってしまいました。

その日から毎日、男の子は広場で女の子にあやまりました。

女の子はいつも、広場の地面をじっとみつめたまま、なにも言わずに帰ってしまうのでした。

ある日、いつものように男の子はあやまりながら、女の子がいつも同じところをじっと見つめていることに気がつきました。

「ここに、なにかあるの?」男の子は女の子に聞きました。

「ここを、ほって。」女の子はそう言いました。

「ほったら、なかなおりしてくれるの?」

「ええ。」

そういうわけで、男の子は森の広場をほりはじめました。

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それから毎日男の子はずっとほりました。

女の子は男の子がほっている横で、ずっと見ていました。

男の子がほる穴は、どんどん大きくなりました。

それでも女の子はなにも言いません。

もっともっと男の子はほりました。


あるときほっていると、いすが出てきました。

女の子はそのいすにすわって見ているようになりました。

男の子は疲れると、その横にすわって休みました。


またあるときほっていると、つくえが出てきました。

女の子はそのつくえに持ってきたパンをおいて、おなかがすくと男の子と食べました。


またあるときほっていると、鏡が出てきました。

その鏡に自分のすがたをうつし、女の子は少し笑いました。

それを見て、男の子はますます頑張ってほりました。


何年も何年も、男の子は地面をほり続けました。

ほった穴はどんどん大きくなって、ときどきいろいろなものが出てきました。

たんす・ベッド・くつばこ・おなべにフライパンまで・・・。

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そしてやがて男の子は青年になり、女の子は娘さんになりました。

ある日青年は、すっかり大きくふかくなった穴を、いつもと同じようにほっていました。

すると、なんと水が湧いたのです。

水はすごいいきおいで「びゅー」っと吹き出しました。

青年は水に持ち上げられて、穴の外に放り出されてしまいました。

目を丸くしてびしょぬれで穴から飛び出してきた青年を見て、娘は思わず声を上げて笑いました。

「うふふ、あははは。。。」

とうとう笑った娘を見て、青年も笑いました。

「あっはは、あっはははは。。」

やがて青年がほった穴には水がたくさんたまり、湖となりました。

ふたりはその湖に顔をうつし、笑いあいました。

けんかの理由が、どうしても思い出せないのです。

ただひと言、女の子は男の子にあやまりました。

「ずっとあやまらなくては、と思っていたの。ごめんなさい。ずっとあやまれなくて。」


ふたりは、その湖のそばに家をたて、それまでに穴からほり出したものを家に入れ、末ながく幸せに暮らしました。

それからは、もし森でけんかをしても、その湖に顔をうつせば、だれでも笑顔でなかなおりできるようになりました。

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「はい、おしまいよ。」とパンおばさんが言いました。

「ずいぶん長い間ほったのね。」と女の子が言いました。

「そうねえ。」

「おこってしまった女の子は、男の子が一生懸命ほったから、うれしかったでしょうね。」

「そうねえ。」

「この森の湖のことかしら?」

「さあ、そうかもしれないわね。」

「私たちがけんかしても、なかなおりできるかしら?」

「ええ、きっとできるわよ。あの湖に顔をうつせばね。」

それからパンおばさんはいたずらっぽくウインクして、こう付け足しました。

「もしもそれでもだめなら、パンおばさんのパンを食べにいらっしゃいね。間違いなく、なかなおりできるから。」

パンおばさんのパンをほおばる子どもたちの後ろの窓に、湖に反射したおひさまの光がうつりました。

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