あしあとふたつ
- 創作童話。パンおばさんのシリーズです。「童話の森」からお引越ししてきました。新しいものもまた書いていきたいです。
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パンおばさんと「旅するしゃぼん玉」
季節は春です。
パンおばさんの丸太小屋がある森も、春の色にすっかり染まりました。
春の色って?
木々の初々しい緑、色とりどりに咲き誇る花、そして透明な青空とやさしい風の色です。
パンおばさんは今朝も早くからパンを焼き、いいお天気なので大きなたらいを出してきてシーツやカーテンをお洗濯です。
そこへいつもの子供たち。
やってきましたよ、パンおばさんのお話を楽しみに。
そうそう、それから焼きたてのパンも楽しみにして。
「パンおばさん、お話して、お洗濯しながら」
「いいわ、後で干すのを手伝ってね」
「いいよー」
こうしていつものように、子供たちの大好きなお話の時間が始まりました。
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私、パンおばさんはこの前、不思議なシャボン玉に出会いました。
何が不思議って、そのシャボン玉さんは割れないでずーっと飛んでいるのです。
その日も今日のようにたらいでお洗濯をしていました。
ジャブジャブゴシゴシ、いっぱい泡を立てながら。
「こんにちは」
どこかで声がしたので、私はあたりを見渡しましたが誰もいません。
「こんにちは」
今度は分かりました。
泡だらけのたらいの上で、ひとつの泡がこちらに話しかけていたのです。
その泡は「シャボン玉だよ」と言いました。
「こんにちは、シャボン玉さん。びっくりしたわ。」
シャボン玉はおかしそうに笑って「おいらが割れないからだろ?」と言いました。
そして「おいら旅をしている途中なんだ。ここで休憩してもいいかい?」と私に聞きました。
旅をしているシャボン玉に出会うなんて、私初めてのことだったからなんだかうれしくなっちゃって。
「旅の話を聞かせてくれないかしら?」と頼んでみました。
するとシャボン玉さんは「いいよ」と言い、ゆっくりと話し始めました。
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おいら、あの山の向こうから飛んできたんだ。
小さなビンを飛び出して、山を越えて森を目指そうと思ったんだ。
そりゃ~大変だったよ。
山に近づいたとき急に黒雲が表れて、ドキッとしたおいらは、素早く大きな木の下に隠れたんだ。
思ったとおり、ざざーって雨が降ってきた。
あんなのに当たったら一発で消えてしまうよ。
割れるわけにはいかないんだから。
やっと晴れたと思ったら今度は虫の大群だ。
蜂だ。
こいつらはぶんぶんうなりながら、おいらに向かってすごいスピードで突進してくるんだ。
「よけなくちゃ」って思ったんだけど、おいらはシャボン玉だろ?
突風でも吹かなきゃ、そんなに急に早くは飛べないんだ。
「もうだめだー」と思ったら、そこに風が・・・
おいらは風に吹かれて舞い上がって、無事に蜂の大群をやり過ごすことが出来たんだ。
その風、なんと近くにいたちょうちょたちが一斉にあおいでくれたんだ。
うれしかったなあ~。
割れるわけにはいかないからな。
蜂も、別においらを狙ってたんじゃなくて、おいらの向こうにある花畑に行くところだったんだって。
そんなに急がなくてもいいのにな。
そしておいらは、とうとう山のてっぺんに着いた。
さあ、ここからどっちへ行こう、森は3つあった。
とりあえず一番右の森へ行ってみることにしたんだ。
その森も、ここみたいに春だった。
ところがそこには人の姿はなかった。
そのかわり、ふわふわおいらみたいに浮かんでるのがたっくさんいたんだ。
ちょっとかわいい子もいたからおいら少し話しかけてみたら、そいつら、なんとおいらをボールにして遊びはじめたんだ。
ちょっと待てよ。
割れるわけにはいかないんだったら。
いくらきみらがふわっとしてるからって、そんなに叩かれたら割れちゃうよ。
あのかわいい子がぽーんとおいらを打ち上げたとき、おいらは必死でそのまま空に飛び上がったんだ。
空で出会った鳥が教えてくれたよ。
あの森は妖精しかいないんだって。
おいら、妖精ってのはもっと優しくて大人しいもんだと思ってたからおどろいたよ。
そして今度はここ、真ん中の森にやってきたんだ。
途中、方角が分からなくてきょろきょろしていたら、「ワンっ」てすぐ近くでで吠えられた。
危なかったなあ、もう少しでびっくりしすぎて割れてしまうところだったよ。
でもその犬いいやつで、「なにしてるんだ」っておいらにやさしく聞いてくれたんだ。
世界にはびっくりさせるやつも恐いやつもいるけど、ちょうちょやこの犬みたいに親切なやつもいるんだな、っておいらちょっとうれしくなったよ。
「おじいさんを探してるんだ」というと、その犬は「おじいさんは知らないけど、この森のことならパンおばさんがたくさん知っているよ」と教えてくれたんだ。
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「そういうわけで、おいらパンおばさんに会いにきたんだ」
私は洗濯の手を止めて、シャボン玉の話を聞いていたの。
「それにしても、よくここまで無事に来られたわね。シャボン玉さんには大変なことだったでしょ?」
だって、シャボン玉は「飛んだ~」と思ったらパチンと消えてしまうでしょう。たまに遠くへ飛んでいくシャボン玉もあるけど、それは飛ばした子供を悲しませないために見えないところまで飛んでいって、それから割れるんだと思うの。
シャボン玉さんは、しばらく黙ったあと、「割れるわけにはいかないんだ」と言いました。
旅の話の中にも、その言葉が何度も出てきていたので、私は聞きました。
「なぜ、割れるわけには行かないの?」
「・・・・おいらを外に飛び出させてくれた女の子、その子がおいらに願い事をしたんだ。おいら、どうせ外へ出たってすぐに消えてしまうんだろうなあって思ってたのに、あの子はそんなおいらに言ったんだ。」
『・・・・おじいちゃんに伝えてね。元気になったら会いにきてね~って、伝えてね~』
「それを聞いたらおいら急にどきどきして。割れちゃいけない。こんなおいらに大切なお願いをしてくれたあの子を悲しませちゃいけないって。そう思ったんだ。」
私が「じゃあ、また飛んでいくのね」と言いかけたとき、シャボン玉さんはたらいのそばからふわーっと浮かび上がりました。
「そういうわけだから、おいらもう行くよ。この森にいないなら最後の森にいるはずなんだから。消えていった仲間が教えてくれたんだ、山の向こうの森にいるって、あの子のおじいちゃん。」
そう言ってシャボン玉さんは、ちょうど吹いてきた春風に乗って、飛んでいってしまいました。
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パンおばさんが「おしまい」と言いました。
聞いていた女の子が「シャボン玉さんは、女の子のおじいちゃんにきっと会えたよね」と言いました。
「ええ、きっと女の子のお願いを伝えて、私に話してくれた旅の話も聞かせてあげたと思うわ」とパンおばさんが言いました。
ほかの子が「今度シャボン玉をするとき、私もお願いをしてみよう。割れないシャボン玉さんに会いたいもの」と言いました。
「私も」「僕も」とみんなが声を上げました。
「さあ、シーツとカーテンを干しますよ。みんな手伝ってね。これがすんだら、おいしいパンを食べましょうね」
パンおばさんがそう言うと、「わーい」と子供たちが飛び上がりました。
たらいに残った泡も、ふわっと飛び上がりました。
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