あしあとふたつ
- 創作童話。パンおばさんのシリーズです。「童話の森」からお引越ししてきました。新しいものもまた書いていきたいです。
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パンおばさんと「小さなつぼみ」
パンおばさんは、小さな森の丸太小屋に住んでいます。
近所の子供たちは、おばさんの家から、おいしいパンを焼く匂いがしてくると、おばさんの丸太小屋に集まってきます。
おばさんの楽しいお話を聞きにくるのです。
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「今日はなんのお話なの?」女の子が聞きました。
「そうねえ、昨日出会った赤い小さなつぼみの話をしましょうか」パンおばさんがいすに腰掛けながら言いました。
「もうすぐ冬なのに、つぼみだったの?冬に咲くお花かしら?」と女の子が言いました。
「いいえ、そうじゃなかったの。とても寒そうにしていたから、どうしたのかしらと思って、声をかけたの」
「声を?」
「ええ、声を」
窓の外を北風がぴゅーっと通り過ぎていきました。
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辺りの木々は冬支度をはじめ、枯葉がたくさん、風に吹かれている道でした。
私は「今日はずいぶん寒いわね」と思いながら早足で丸太小屋まで帰る途中でした。
そのとき、私の歩く道の真ん中に、小さな赤いつぼみをつけた花が一本きり、そこにいたの。冷たい風に吹かれながらも、何とか根を踏ん張って。
私には、そのつぼみがとても淋しそうに見えたので、声をかけました。
「つぼみさん、もうすぐ寒い寒い冬になるというのに、こんなところでどうしたの?」
赤いつぼみは答えました。
「待っているの」
「何を待っているの?」と私は聞きました。
「男の子よ。まだ秋にもならない頃、この道を歩いて通った男の子よ」とつぼみは答えました。
「どうしてその男の子は、あなたをここへ置いていったのかしら?このままじゃ、そのうち北風に吹き飛ばされるわ。雪に埋もれてしまうわ」と私は心配して言いました。
「・・・そうね。私、つぼみをつけるのが早すぎてしまったみたい。」
つぼみはしょんぼりとうつむいて、よりいっそう淋しげに見えました。
つぼみは続けて言いました。
「彼は大きな荷物を背負っていて、ポケットから落ちた小さな種だった私を拾えなかったの、急いでもいたし。だから、そのとき彼はこう言ったの。
ごめんね。君が赤いかわいい花を咲かせる頃、きっとむかえにくるからね。だから、ここで待っていてね。
って。だから私はここで花を咲かせて、彼を待つの」
私はなんだかかわいそうになりました。
なぜって、きっと彼は、春になるまでやってこないでしょうから。春になったら、種が花を咲かせると思っていたのでしょう。
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つぼみがゆっくりとまた話し始めました。
「おばさん。もうすぐ私は、小さいけれどかわいい赤い花を咲かせます。でもきっと冬は越せない。早すぎたんですもの。仕方がないわね」
私はますますかわいそうになって言いました。
「もし良かったら、私の丸太小屋までこない?土と一緒に連れて行ってあげるわ」
つぼみは首を振りながら答えました。
「ありがとう、おばさん。でも、それはできません。もしも彼がきまぐれにでもやってきたときに、ここにいないと見つけてもらえないもの。そうなったら、春にも彼は来なくなってしまう」
私はなぐさめるつもりで言いました。上手ななぐさめにはならなかったけど。
「きっともうすぐ、彼がむかえにくるわ。元気を出して。」
「だけど、おばさん。彼は私がもうつぼみになっていることも、彼は知らないんです。」
私は約束をしました。
「その男の子を探して、あなたのことを伝えるわ、きっと」
そうして私たちは別れ、私は、また歩き出しました。
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「ちゃんと探せるかしら。見つかるといいんだけど。まずは、誰に聞いてみようかしら」
不安になりながら、道を歩いていくと、男の子がうつむいたまま歩いてきます。
「もしかしたら」
私はどきどきしながら声をかけました。
「もしもし、何かを探しているの?」
そうしたら、何てことでしょう。その男の子はこう答えました。
「前に通ったときに、花の種をひとつ落としてしまったんです。春になるまで来れないはずだったけど、もうすぐ冬になると思うとかわいそうになって・・・。むかえに来たんです」
私はそれはそれはうれしくなって、さっきのつぼみのことを教えてあげようと思ったけど、やめておきました。
だって、この道はまっすぐで、きっと彼は自分で見つけられるでしょう、赤い小さなつぼみを。
つぼみも、そうやって探しながらやってくる彼を見て、きっと幸せを感じられるでしょう。
「きっともう少し先じゃないかしら」
といって、私は彼を見送る振りをして、こっそり後ろからついていきました。
ほうら、思ったとおり。つぼみはますます赤くなり、少し開いたようでした。
それはもう、本当にうれしそうでした。
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「きっと、つぼみは今頃、男の子のそばで小さな赤いかわいい花を咲かせているでしょうね」と女の子が言いました。そういう顔も、ほんとうにうれしそうでした。
「さあ、みんなパンを食べましょう」とパンおばさんが言いました。
幸せなお話しを聞いて、みんなにこにこでパンをいただきました。
パンおばさんも、そんなみんなを見ていると、幸せでにこにこするのでした。
この森にも、もうすぐ本当の冬がやってきます。