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あしあとふたつ

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パンおばさんと「小さな魔女の最後の魔法」

夏が過ぎ、パンおばさんの住む森にも、ひと雨ごとに秋がやってきます。

季節は流れていきますが、今日もいつもと同じようにパンおばさんはパンを焼き、いい匂いをかぎつけて子供たちが集まってきます。

さあパンおばさん、今日のお話はなあに?

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むかし、小さな村の片すみに、小さな古い美術館がありました。

美術館の館長さんはもう年を取っていました。

「美術館がなくなるのはさびしいが、訪れる人もほとんどいないし、残っている絵たちに早くいい買い手がつくといいのになあ」と、館長さん。

この美術館は、もうすぐなくなってしまうのです。

ところで、この美術館には小さな魔女が住んでいて、小さな魔女はもうずっと館長さんと友達でした。

ある日、館長さんが言いました。

「ねえ、魔法でこの美術館に人を集められないかい?そうすれば、きっといい買い手がつくのになあ。」

小さな魔女は「人の心に魔法はかけたくないねえ。それに私もすっかり年を取ったから、あとひとつしか魔法は使えないんだよ。」と答えました。

「それじゃあ、もったいない。仕方ないなあ。」

館長さんは、しょぼんと肩を落としました。

そんな小さな魔女のもとに、“いい魔女会”から手紙が届きました。

それを読んだ小さな魔女は、うつむいてあることを考えはじめました。



ところで、この美術館には6枚の絵が飾ってあります。

小さな魔女だけが知っていることですが、夜中になると絵の中の人物たちがおしゃべりをはじめるのです。

困った顔の『貴婦人』が言います。

「あの館長さん、しっかり掃除をしてくれないから、ドレスにほこりがたまってきちゃうのよ。」

人差し指を右上に突き出した『うったえる男』が言います。

「ほこりなんて大した問題じゃない。そんなことよりも、誰もわしの話を聞きにこん。どうなっとるのじゃ。」

となりの『静物画』のりんごをねらっている『遊ぶ男の子』が聞きます。

「その指は何を指しているの?」

「これは空の中の秘密を指しているのじゃ。」

「どんな秘密なの?」

「それは秘密じゃ。秘密を指しているのだから、秘密なのじゃ。」

『貴婦人』が横から「それじゃあ、結局分からないじゃないの。」と言います。

「だから秘密なのじゃ。」と『うったえる男』は満足そうに言います。

その横では『猫とねむる老人』がごそっと寝返りを打ちます。

いつもこんな感じです。


そんな絵たちの中に、森を背景にして描かれた『森で待つ姫』がいました。

姫はずーっと待っています。

誰かは分からないけれど、ずーっと待っているのです。

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ある晩、小さな魔女が『森で待つ姫』にこう言いました。

「ずーっと待ってるなんて、つまらなくないかい?
実はね、遠くの国で“森で待つ姫”を探している王子がいるんだよ。
その姫と結婚して幸せにならなければ、自分の国をかえるの国に変えられてしまうってのろいをかけられたんだって。いたずら好きな困った魔女がやったんだって。
今日ね、“いい魔女会”から手紙がきてね。そういう姫を知らないかい?って書いてあったんだよ。」

「まあ、おかわいそうな王子様。私が絵じゃなければ良かったのに。」

「あんたが行くんだよ。だってあんたこそ“森で待つ姫”じゃないか。勇気をお出しよ。」




姫は、しばらく考えて言いました。

「少し恐いけど・・・。魔法で私を、ここから出してくれるの?それならきっと王子様に会って幸せになれるように努力をします。」

「そのかわり、王子と幸せにならなければ消えてなくなってしまうけど、それでもいいかい?」

「ええ、かまいません。どうか私をここから出してください。」

それを聞いた魔女はポケットから古びた杖をとり出し、姫の絵の中に小さな自分を描きはじめました。

「なぜ?」と姫に聞かれて、「私ももう年を取ったから、これが最後の魔法なんだよ。魔法がなくなってしまったら、私はそのうち消えてしまう。それがさびしくてね。絵の中にでも生きていたいのさ。」と小さな魔女は答えました。


「ずーっと絵の中で生きつづけることも、さびしいことですよ。」と姫は言いましたが、小さな魔女はそれには答えず、絵を描き終わり杖をポケットにしまいました。

すると、あらあら不思議。

絵の中にいた姫は絵の外に立ち、小さな魔女は絵の中にいました。

「小さな魔女さん、どうもありがとう。きっと王子様と幸せになります。」

『森で待つ姫』はそう言い残し、美術館を出て行きました。



残った絵の中の小さな魔女に、『貴婦人』が言います。

「ずーっとここで生きたいだなんて、おまえも変わってるねえ。さびしいものよ。」

『猫とねむる老人』がちらっと目を開けて、小さな魔女のほうを見ます。

それから、ゆっくりと寝返りを打ちました。

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あくる朝から、美術館は大騒ぎ。

『森で待つ姫』が絵の中から消えて、その中に小さな魔女がいるのです。

村の人や、となりの村の人、そのまたとなりの村の人までが、その不思議な絵をひと目見ようと美術館に押し寄せてきたのです。

そのうちに、『貴婦人』や『うったえる男』や『静物画』や『遊ぶ男の子』や『猫とねむる老人』にも買い手がつきました。

美術館がとうとう閉館になる日、遠くの国の王子が花嫁をつれて美術館にやってきました。

最後に残った『森で待つ姫』の絵の中の小さな魔女に、「ありがとう」と言うためでした。

その後館長さんは、友達である小さな魔女の絵を大切に包み、自分の家へと持って帰りました。

美術館はなくなってしまったけれど、大好きな館長さんと一緒にいられて、小さな魔女はとても幸せでした。

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「はい、今日のお話はここまで。」

「小さな魔女がかわいそうだと思ったけど、幸せだったのね。」

「ええ、そうね。」

「みんな幸せになったんだ、良かったなあ。」

「ぼくたちだって幸せだよ。だってパンおばさんの焼きたてのパンは、とってもおいしいもん。」

ふふふ。

「いただきまあす。」

みんなはおいしくおいしくパンをいただきました。

外では、木々の葉がやさしい秋の風に揺れています。

小さな魔女の絵?

それはこのパンおばさんの丸太小屋のどこかに、飾ってあるかもしれませんよ。
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